我が国と、米国、ドイツ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコの諸国間では「社会保障協定」が締結されており、年金の加入期間の通算制度が認められています。各協定は類似の内容ですので、ここでは「日米社会保障協定」の内容の概略をご紹介致します。(日独社会保障協定との主要相違点は赤字で補記してあります。)


 日米社会保障協定が平成17年10月1日に発効し、滞米経験者は老後に米国の年金を受け取りやすくなりました。厚生労働省によると、年収1千万円で、5年間米国で勤務した人の場合、老後に日本の年金の他に、米国から一ヶ月あたり約3万円の年金を、生涯受け取れるようになります。
 これまでは、滞米経験のあった日本人で、老後に米国の年金を受け取ることができたのは、10年間以上米国で働いた人だけでした。米国の年金制度は強制加入のため、滞米中は米国の年金制度に加入して、保険料を納めなくてはなりません。駐在員などの場合、日本の年金の未払い期間が生じないように、日本と米国の両方で保険料を支払う「二重払い」が必要でした。また、米国の年金については、10年以上保険料を納めることが受給の要件になっているため、滞米年数が10年を経過する前に帰国した場合、米国で納めた保険料は「掛け捨て」になってしまうという、2つの弊害がありました。
 しかし日米社会保障協定の発効により、日米いずれかの年金制度に合計10年以上加入していれば、老後に米国の年金を受け取れることになりました。
 一方、これから米国で働く人は、滞米期間が5年以内であれば、一定の条件のもとに米国の年金制度への加入は免除されることになりました。



● 協定の特徴


 ○ 日米両国の年金・医療保険制度への二重加入の防止をする(二重加入防止について、
    年金だけでなく医療保険制度も含まれるのは、日米協定のみ)。

 ○ 日米両国の年金加入期間を通算し、年金保険料の掛け捨てを防止する。



● 年金・医療保険制度への二重加入の防止


 日本の事業所に勤務する人などが、米国にある支店や駐在員事務所などに派遣される場合、両国の社会保険制度(年金・医療保険制度)に二重に加入しなければならないことがありましたが、協定によりいずれか一方の社会保険制度のみに加入すればよいことになりました。この制度は、事業所で働く人だけでなく、自営業者にも適用されます。
 日本から米国に行き就労する人が加入する社会保障制度は、米国での就労状況や就労期間により次のようになります(米国から日本に来て就労する人の場合も同様の概念です)。


米国での就労状況・期間 加入する社会保障制度
一時派遣(5年以内と見込まれる場合) 日本の社会保障制度(注1)
上記派遣者の派遣期間が、予見できない事情により
5年を超える場合
原則米国の社会保障制度(申請内容により原則として
1年の延長が認められます)
長期派遣(5年を超えると見込まれる場合 米国の社会保障制度
 注1 米国派遣の直前に原則6ヶ月以上日本で継続雇用され就労している事が必要

※ 米国で現地採用された人の場合は、米国の社会保障制度が適用され、日本の制度は適用
  されません(日本で米国人を雇った場合も同様に、日本の制度が適用されます)。

※ 米国の年金・医療保険制度の加入が免除されるためには、事業主を通じて管轄の社会保
  険事務所で「適用証明書」の交付を受ける必要があります。また、米国の年金・医療保険
  制度のみに加入する人は、事業主を通じて管轄の社会保険事務所や健康保険組合などに
  「資格喪失届」を提出する必要があります。




● 年金加入期間の通算による年金保険料の掛け捨て防止


 年金を受けるためには、一定の期間にわたり年金制度に加入して、年金保険料を納めなければならないという期間要件が、日米両国でそれぞれ定められています。ところが、いずれかの国の年金制度に一時的に加入した場合などは、加入期間が短いために年金を受けられる要件を満たさず、せっかく納めた保険料が、掛け捨てになってしまうことがありました。



【 協定発効前 】

日本での年金加入期間 21年 米国で4年


 →日本の年金加入期間(21年)は、日本の老齢年金の期間要件(25年)を満たさないので、
   日本の老齢年金を受給できない。一方、米国での年金加入期間(4年)は、米国の老齢
   年金の期間要件(10年、ドイツの場合は5年)を満たさないので、米国の老齢年金も受給
   できない



【 協定発効後 】

日本での年金加入期間 21年 米国で4年

                           

両国の年金加入期間を通算 → 加入期間25年として扱う


 →日本の年金加入期間(21年)は、日本の老齢年金の期間要件(25年)を満たさないが、米
   国の年金加入期間を通算すると25年以上になるので、日本の老齢年金を受給できる
   一方、米国での年金加入期間(4年)は、米国の老齢年金の期間要件(10年、ドイツの場
   合は5年)を満たさないが、日本の年金加入期間を通算すると10年以上になるので、米国
   の老齢年金も受給できる

※ この取り扱いを受けるためには、米国での年金加入期間が最低1年6ヶ月以上必要です
  
(ドイツの場合は年金加入期間が1月あれば受けられます)

※ 老齢年金と同様に、障害年金および遺族年金を受ける場合にも、加入期間等について一
   定の要件がありますが、この要件を満たしているかどうかを判断する時に、日本の年金加
   入期間を米国の年金制度に加入していたのもとみなして判断します。

※ 年金を受ける時には、日米両国の年金制度に加入した期間に応じた年金額を、それぞれ
   の国から受け取ることになります。

※ 米国の年金を受け取るには、受給年齢になった時に、自分で社会保険事務所に申請しま
   す(受給権発生の3ヶ月前から申請可能です)。現在、米国の受給開始年齢は65歳です。
   (1937年以前生まれの人は65歳から、1938年生まれの人は65歳2ヶ月から、また1943〜
   1954年生まれの人は66歳からという具合に、生まれた年によって受給開始年齢は異なり
   ます。
ドイツの場合は生まれた年にかかわらず65歳から支給されます。

※ 年金請求の手続きについては、「ご依頼の多い分野」のページをご参照ください。



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